2018/4/2

 西川美和監督『永い言い訳

ひとりひとりの細かい動きが全て自然で、どれも本当に生きている人間の人生だった。主人公のクズっぷり、他人の気持がよくわからないところ、自分しか頭にないところ、誠実な生き方をしている人への負い目、逃避、分かる部分が多すぎる。死んだ妻のスマホに残っていた下書きのメールを見て、自分の哀れさと向き合わなければいけなくなった時の血の引く感じ、行き場の無い怒りと否定と事実が己の身にしみ込んでいくような精神状態、自分の過去を追体験しているような気がした。

この人は幸せになんてなれない。なってはいけない。

受賞パーティや美容院での周りの人間の優しさ、辻褄を合わせたように綺麗に収まった現実、自分たちのズレに言及しない主人公以外の人間もそれなりにクズ。でも、そうやって鈍感に生きている。もしかしたらその歪んだ現実やズレに敏感になってしまうのは、今まで鈍感に生きすぎたて人を見下した結果、絶対に心の底から笑えないことをしてしまったという自覚のある主人公だけなのかもしれない。

他人ではなく自分が生きる行為すべてに疑いの目を向けざるをえなくなった主人公は、人間と、人間じゃないところの境界線を死ぬまで一生這いずり回るのだと思う。